PKO「参謀長」に陸上自衛隊1佐。司令官はなんと中国軍少将ーーアフリカ・南スーダンで“日中タッグ”が実現

国連がアフリカ・南スーダンで行うPKO(平和維持活動)の「参謀長」に陸上自衛隊の1佐が就任することになった。しかも、タッグを組む「司令官」は中国軍の少将。日中関係は最悪の状況だが、アジアから遠く離れたアフリカの地で南スーダンの平和のために力を合わせることになる。
布施祐仁 2026.04.18
誰でも

陸自部隊撤収後も司令部要員の派遣は続けてきた

 日本政府は17日の閣議で、国連南スーダンPKO(平和維持活動)の司令部(軍事部門)に陸上自衛隊の1佐を「参謀長」として派遣することを決定した。5月11日から任務に当たる。

 参謀長は、軍事部門の司令部で司令官、副司令官に次ぐナンバー3。国連PKOで自衛官が就くポストとしては過去最高位である。

 日本は2017年に陸上自衛隊の施設部隊を南スーダンPKOから撤収させたが、その後も兵站、施設、航空運用、情報などの業務を担当する司令部要員の派遣は継続してきた。その数、のべ65人。こうした実績も評価されて、今回初めて自衛隊員が参謀長という要職を任されることになったのだろう。

防衛省ウェブサイトより。

防衛省ウェブサイトより。

2011年に独立、しかし内戦に

 アフリカ大陸の東部に位置する南スーダン共和国は、2011年7月にスーダン共和国から分離独立を果たした世界で最も新しい国である。

 同国の平和を維持しながら国づくりを支援するため、国連は独立と同時にPKO「南スーダンミッション(UNMISS)」を立ち上げた。

 日本も国連の要請を受けて、2012年1月から陸上自衛隊の施設部隊(300人規模)を派遣し、道路補修や国連施設の敷地整備、国内避難民への医療・給水支援などを実施した。

 残念ながら、同国の平和は長続きしなかった。政府・与党内の権力闘争が激化し、2013年12月、ついに内戦が勃発してしまう。関係諸国の仲介により、2015年8月に和平協定が締結され、翌2016年4月には国民統一暫定政府が発足する。だが、同年7月には首都ジュバで大規模な武力衝突が発生し、内戦が再燃してしまう(ジュバ・クライシス)。

 この時は、自衛隊宿営地のすぐ近くで政府軍と反政府勢力の激しい戦闘が繰り広げられ、宿営地内にも流れ弾が飛んできた(施設9カ所が被弾)。自衛隊と同じ地域にあったルワンダ軍の宿営地には3発の迫撃砲弾が撃ち込まれ、5人の負傷者が出た。また、別の地域では、文民保護エリアの警護に当たっていた中国人民解放軍の装甲車に砲弾が命中し、2人の兵士が死亡した。

南スーダンで道路整備を行う陸上自衛隊の施設部隊(UNMISS日本派遣施設隊のfacebookページより)

南スーダンで道路整備を行う陸上自衛隊の施設部隊(UNMISS日本派遣施設隊のfacebookページより)

「武力紛争・戦闘ではなく衝突」

 国連PKOへの自衛隊派遣は、武力紛争が発生していない場合か、紛争当事者の間で停戦合意が成立している場合が要件となっている。憲法9条の下では「自衛のための必要最小限度の実力行使」しか認められないというのが日本政府の見解なので、国連PKOで自衛隊が武力を行使することはできない。そのため、武力紛争中の地域には派遣できないのだ。

 派遣後に自衛隊の活動地域で武力紛争が発生・再燃した場合は、撤収しなければならない。だが、現代のPKOは「文民保護」を最優先の任務としており、武力紛争が発生・再燃したからといって、すぐに撤収する国はない。紛争で危険にさらされる民間人を保護するために、そこに踏みとどまるのだ。そんな中、日本だけ自衛隊を撤収させるのは、現実的に困難であった。

 そこで日本政府は、2013年12月の内戦勃発時と2016年7月の内戦再燃時のいずれも、「国際的な武力紛争には当たらない」という評価をし、自衛隊を撤収させなかった。

 当時の安倍晋三首相の“珍答弁”、「(国際的な武力紛争の一環としての)戦闘行為には当たらない。衝突、言わば勢力と勢力がぶつかったという表現を使っている」(2016年10月11日、参議院予算委員会)も、この評価に基づいたものであった。

 しかし、2016年7月の内戦再燃時に現地の自衛隊部隊が作成した「日報」が隠蔽されていた事実(※筆者の情報公開請求に対し、防衛省は日報が保存されているにもかかわらず「破棄済み」と虚偽の回答を行う)が発覚し、しかも日報には「戦闘」と記されていたため、国会が紛糾する。

 そうしたこともあり、日本政府は内戦が少し沈静化した2017年5月、「ジュバでの施設整備に一定の区切りが付いた」として陸上自衛隊の施設部隊を南スーダンから撤収させる。その後は、前記の通り司令部要員のみ派遣してきた。

2016年の「ジュバ・クライシス」(内戦再燃)と防衛省による日報隠蔽事件を検証したノンフィクション。私と当時朝日新聞のアフリカ特派員だった三浦英之氏の共著。

2016年の「ジュバ・クライシス」(内戦再燃)と防衛省による日報隠蔽事件を検証したノンフィクション。私と当時朝日新聞のアフリカ特派員だった三浦英之氏の共著。

文民保護のために武力行使もいとわないPKOに

 現在のPKOは、日本でPKO法(国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律)が制定された1992年当時とは様変わりしている。

 PKO部隊がそこにいながら民間人の大虐殺を止められなかったアフリカ・ルワンダ(1994年)と旧ユーゴスラビア・スレブレニツァ(1995年)での失敗を教訓とし、国連安全保障理事会は1999年にPKOの任務に「文民保護」を位置付ける「決議1265」を全会一致で採択。以後、文民保護のために武力行使も含む「必要なあらゆる手段」を用いることを認めるようになった。

 南スーダンPKOも2013年12月の内戦勃発以降、最優先任務が「国づくり支援」から「文民保護」に切り替えられ、そのために必要なあらゆる手段を用いる権限が付与された。さらに2016年7月の内戦再燃後には、文民への攻撃が準備されているとの確かな情報がある場合には、攻撃を未然に防ぐ「先制攻撃」まで認められた。

 2016年7月の内戦再燃時は、南スーダン政府軍が国連の文民保護エリアを攻撃した。前出の中国人民解放軍の装甲車に対する砲撃も政府軍によるものだったとみられている。政府軍は国連の文民保護エリアが反政府勢力の「隠れ場所」になっていると疑っていたのだ。

 文民保護のため、時には政府軍を相手に武力行使しなければならないようなPKOは、憲法9条によってPKOでの武力行使が認められない自衛隊には本来参加できないものであった。この矛盾が顕在化したのが南スーダンPKOだった。

 ただし、南スーダンPKOの司令部要員は基本的に非武装で業務を行うこととされているため、自衛隊も参加できる。

 もう一つ、自衛隊も参加できる部署がある。「軍事監視要員(military observer)」だ。担当地域を巡回して停戦監視や合意違反の調査を行うとともに、各勢力とコミュニケーションをとって緊張緩和や信頼醸成を図り武力衝突を予防する。これも軍人が非武装で実施する。

 非武装で業務を実施する部署であれば、自衛隊も憲法9条との矛盾なく参加できる。これらの部署に自衛隊員を派遣するのが、日本にふさわしい国連PKOへの貢献のあり方だと筆者は考える。

内戦再燃の危機ーー日中タッグで南スーダンの平和を

 自衛隊の施設部隊撤収以降、日本では南スーダンへの関心が急速に薄れていったように見える。司令部要員の派遣は続けられてきたが、メディアで取り上げられることはほとんどなかった。

 南スーダンでは内戦再燃後、2018年9月に再び和平協定が結ばれたが、その後も不安定な状況が続いている。

 特に昨年末以降、同国東部のジョングレイ州で政府軍と反政府勢力の戦闘が激化。今年3月1日にも、同国北部の村を反政府勢力が襲撃し、政府軍兵士や村人ら約170人が死亡する事件があった。国連は、2013~18年に推計40万人が死亡した内戦が「再燃する恐れがある」と警鐘を鳴らしている。

 こうした中で南スーダンPKOの役割はますます大きくなっている。

 3月、南スーダンPKOの軍事部門司令官に中国人民解放軍の呉俊輝少将が就任した。5月からは陸上自衛隊の1佐が参謀長となって司令官を補佐することとなる。このタッグで、1万人近い軍事部門を率いるのだ。

 昨年11月の高市首相の台湾有事をめぐる発言の影響で、いま日中関係は冷え込んでいるが、それとこれとは別である。良好な関係を築き、南スーダンの平和と文民の保護のため、国連旗の下で力を合わせて頑張っていただきたい。それは長期的には、東アジアの平和にも寄与するだろう。

南スーダンPKOの司令部で共に仕事をする陸上自衛隊と中国人民解放軍の士官(陸上自衛隊のFacebookページより)

南スーダンPKOの司令部で共に仕事をする陸上自衛隊と中国人民解放軍の士官(陸上自衛隊のFacebookページより)

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