横須賀米兵レイプ事件から24年―被害者のジェーンさんが国会で集会「日米地位協定の改定を」
2002年に横須賀で米兵によるレイプ被害に遭った在日オーストラリア人のキャサリン・ジェーン・フィッシャーさんが、事件から24年となる4月6日、米兵犯罪の根絶と日米地位協定の抜本的な見直しを求める集会を国会(参議院議員会館)で開いた。

事件から24年となる4月6日にジェーンさん(中央)が参議院議員会館で開いた集会。右が筆者。左は飯島滋明・名古屋学院大学教授。
米兵の「逃げ得」許さなかったジェーンさん
事件当日、ジェーンさんは米海軍横須賀基地近くの駐車場で同基地所属の米兵に車の後部座席に押し込まれ、レイプされた。
直後に警察に駆け込むが、そこで信じられない仕打ちを受ける。被害に遭った現場に連れ戻され、どのようにレイプされたのか事細かく説明させられたのだ。その後は警察署で長時間にわたり事情聴取を受けた。彼女が証拠保全のため「早く病院に行きたい」と訴えても、担当した男性警察官は「怪我していないだろう」と冷たく言い放って取り合わなかったという。「(被害者ではなく)犯人のように扱われていると感じてショックだった」とジェーンさんは振り返る。
こうした「二次被害」にも耐えながら警察の捜査に協力したが、犯行直後に基地へ逃げ帰った犯人は日米地位協定に守られて逮捕されることもなく、起訴もされなかった。米軍も軍法会議にはかけず、犯人が裁かれることはなかった。
納得がいかなかったジェーンさんは、民事で提訴。裁判所は彼女の主張を認め、犯人に慰謝料など300万円の支払いを命じた。だが、犯人は判決が出る前に軍を除隊し帰国してしまっていた。
このような「逃げ得」を許していたら、米兵犯罪を根絶することはできない-ーそう考えたジェーンさんは、数年間かけて自力で犯人の居所を探し出し、米国でも民事訴訟を起こして勝訴する。事件から11年後のことであった。
その後、ジェーンさんは性暴力被害者の支援に取り組むとともに、日本で犯罪を起こした米兵が正当に処罰されない原因となっている日米地位協定の改定を求めて、さまざまなアクションを行ってきた。
「日本人ファースト」、地位協定改定こそ
事件から24年を迎えた4月6日の集会で、ジェーンさんは「日の丸」に「24」と書き込んだパネルを掲げた。
「最近、『日本人ファースト』という言葉が流行っていますが、私は24年間、『日本人ファースト』と言い続けています。日本政府は、(米軍・米兵より)日本人を大事にしないといけない。もうこれ以上、米兵犯罪の被害に遭う日本人を増やさないようにしないといけない。そのためにも日米地位協定を見直すべきです」

「私は24年間、『日本人ファースト』を言い続けてきた」と語るジェーンさん。
来年で事件から25年、四半世紀となる。「何でここまで頑張らないといけないのか…」――ジェーンさんの口から、こんな本音が漏れる場面もあった。それでも活動を継続していく意思を示した。「次の被害者を生まないために、続けなければならない」と。
この言葉を聞きながら、私は16年前に初めてジェーンさんに取材した時のことを思い出していた。
都内のジェーンさんの自宅を訪ねると、彼女が描いたという1枚の絵画に目が釘付けになった。白いキャンバスに、黒いペンでぐちゃぐちゃに書き殴った作品だった。PTSD(心的外傷後ストレス症)に苦しむ彼女の心の内を見せられたような気がした。
取材では、こんな話を聞いた。
事件後、深くて真っ暗な穴に落ちる悪夢をよく見たという。穴の中には、彼女と同じように米兵にレイプされた被害者がたくさんいて、苦しみ、うめいていた。
「本当は、オーストラリアに帰りたかったんですよ。でも、日本に残って変えていかないといけなかった。自分だけ穴から出て、そのまま行くことはしたくなかったのです。ちゃんと穴をふさがないと、他の人がまた落ちるでしょ。私にとっては、本当に『地獄の穴』でしたから」
こうした思いでジェーンさんは24年間、米兵犯罪の根絶のために活動を続けてきた。だが、彼女を苦しめた「地獄の穴」はまだ埋まっていない。

16年前(2010年)にジェーンさんに取材した時に撮った写真
極端に低い米軍関係者の起訴率
2023年12月には、沖縄県内で米空軍嘉手納基地所属の米兵が16歳未満の少女を自宅に連れ込み、暴行する事件が起きた。この事件は起訴され、今年1月30日、不同意性交とわいせつ目的誘拐罪で懲役5年の実刑が最高裁で確定した。
しかし、米軍関係者による性犯罪で起訴されるのは、ごくわずかである。
私が法務省に情報公開請求して入手した米軍関係者による事件の処分に関する部内統計資料によると、2015年から2024年までの10年間に性的暴行容疑で送検された53人の米軍関係者のうち、起訴されたのは7人となっている。起訴率は、わずか13%である。
ちなみに、日本全体の性的暴行事件の起訴率は毎年40%前後で推移している。米軍関係者による性的暴行事件の起訴率が格段に低いのは明らかである。
低いのは起訴率だけではない。逮捕率も低い。その要因になっているのが、日米地位協定だ。
同協定では、基地内にいる米軍関係者を日本の警察が逮捕することはできず、容疑者の身柄は起訴後に日本側に引き渡されることとなっている。米軍の協力を得て容疑者への取り調べを行うことは可能だが、これもあくまで「任意」だ。必然的に、捜査には制約が生じる。
1995年に沖縄県で発生した米兵3人による小学生女児に対する性的暴行事件を機に、日米両政府は「日米地位協定の運用改善」で合意。殺人と強姦(現・不同意性交)事件に限り、容疑者の起訴前の身柄引き渡しを日本側が要請した場合、米側は「好意的な考慮を払う(=前向きに検討する)」こととなった。いわば、日米地位協定に「例外」を設けたのである。
しかし、実際に起訴前に容疑者の身柄が日本側に引き渡されたのは、この31年間で5回だけだ。最後は2008年なので、この18年間は一度も引き渡されていない。日本政府が米軍に遠慮して、引き渡しを積極的に求めていないのだ。
こんな「米軍ファースト」の日本政府の下では、日米地位協定の改定は永遠に実現しないだろう。
集会で発言した飯島滋明・名古屋学院大学教授(憲法学、行政法学)の言葉に深くうなずいた。
「日本政府に国民を守るつもりがあったなら、ジェーンさんに24年間もこんな活動をさせていない。日米地位協定はとっくに変わっていただろう」
日米地位協定の改定を実現するには、「米軍ファースト」の日本政府を「日本国民ファースト」に変える必要がある。
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