なぜ与那国島に地対空ミサイルなのか――上地町長、小泉防衛大臣に配備容認を伝達?

沖縄県の与那国町長が、与那国島への自衛隊地対空ミサイル配備を容認する意向を小泉防衛大臣に伝えたと報じられている。防衛省が台湾に最も近いこの島に地対空ミサイルを配備しようとしている理由と住民に及ぼすリスクについて解説する。
布施祐仁 2026.04.14
誰でも

「本当に町長は容認したのか」―与那国町民の声

 沖縄県与那国町の上地常夫町長は13日、東京・市ヶ谷の防衛省で小泉進次郎防衛大臣と面会した。マスコミ各社は、上地町長が与那国島への陸上自衛隊地対空ミサイル部隊の配備を容認する意向を伝えたと一斉に報道した。

 毎日新聞(電子版)の記事によると、上地町長は面会後、「防衛、安全保障政策は国の専権事項であり、(地対空ミサイル部隊の配備に)異を唱えない」と小泉防衛大臣に伝えたことを記者団に明かしたという。

 記事を読んで、以前に取材でお世話になった与那国町民の植埜(うえの)貴子さんに電話をかけると、「本当に町長は容認を表明したのだろうか」と信じられない様子だった。

 植埜さんは、8日に町民有志4人で上地町長と面談したばかりだった。その場では、上地町長は地対空ミサイル部隊の配備について「町民の意見を幅広く聞いた上で、(国に)伝える」と話していた。また、地対空ミサイル部隊が配備された場合、島の人口に占める自衛隊員の割合が2割を超えるとして、島の自治に及ぼす影響についても懸念を示していた。植埜さんは、こう話す。

 「上地町長の真意を測りかねています。面談した時は、これから集落ごとに懇談会を開いて町民の意見を幅広く聞きたいと話していましたので、それをやる前に容認するわけがないというのが正直な気持ちです」

 与那国町では、3月2日に、地対空ミサイル部隊配備に関する防衛省主催の住民説明会が開かれた。その時も上地町長は「(配備は)国の専権事項だが、町としての意見は、住民の意見を聞いて防衛省側に伝える」と話していた。

陸上自衛隊与那国駐屯地(筆者撮影)

陸上自衛隊与那国駐屯地(筆者撮影)

地対空ミサイル配備で何を守ろうとしているのか

 防衛省が与那国島への配備を計画しているのは、「03式中距離地対空誘導弾(中SAM)」を運用する部隊。

 中SAMは、敵のミサイルや航空機を迎撃する誘導ミサイルで、陸上自衛隊の作戦部隊や重要施設の防護を目的とする。射程距離は公表されていないが、50~60キロ程度だと推定されている。

陸上自衛隊の03式中距離地対空誘導弾の発射機。これは石垣島に2023年に配備されたもの。

陸上自衛隊の03式中距離地対空誘導弾の発射機。これは石垣島に2023年に配備されたもの。

 台湾に最も近い(最短距離約110キロ)与那国島には、2016年に陸上自衛隊の駐屯地が開設され、周辺の空と海をレーダーで監視する沿岸監視部隊が配備された。2024年には、電子戦部隊も追加配備された。2026年度には、対空電子戦部隊も配備される予定だ。

 防衛省が与那国島に中SAMを配備しようとしているのは、これらの部隊の防護が第一の目的だ。

 なかでも対空電子戦部隊は、台湾有事などの際、中国軍にとってはやっかいな存在になる。

対空電子戦部隊は「24式対空電子戦装置」を運用する部隊で、敵の戦闘機部隊の「空の司令塔」となる早期警戒管制機(AWACS)のレーダーを電磁波による妨害で無力化する能力を持つ。性能は非公表だが、ロシア軍が運用する同種の装備は300キロ先を飛行する航空機のレーダーを妨害できると推定されている。

2025年12月に与那国島で開かれた対空電子戦部隊の配備に関する住民説明会の配布資料

2025年12月に与那国島で開かれた対空電子戦部隊の配備に関する住民説明会の配布資料

 24式対空電子戦装置がこれと同レベルの性能を有する場合、台湾有事における中国軍の航空作戦にとってやっかいな存在となる。中国軍はこれを無力化するために、まっ先に与那国島を攻撃する可能性が高い。そうしたことも想定して、防衛省は同島に中SAMを配備して防空を強化しようとしているのだろう。

 さらに、中SAMによる防空強化が新たな部隊配備の「呼び水」となるかもしれない。奄美大島、宮古島、石垣島では、中SAM部隊と洋上の敵艦艇を攻撃する地対艦ミサイル部隊がセットで配備されている。与那国島へも地対艦ミサイルを配備しようとする可能性は否定できない。

 加えて、台湾有事になれば、米軍も台湾に近い与那国島に地対艦ミサイルやドローン、移動式レーダーなどを展開する可能性がある。陸上自衛隊の中SAMには、こうした米軍の部隊・装備を中国軍の攻撃から守る役割も担うことになるだろう。

中SAMを配備しても住民は守れない

 中SAMが「抑止力」になって、中国軍が与那国島への攻撃を控える可能性は低い。大量のミサイルや自爆ドローンなどで飽和攻撃を仕掛ければ、中SAMの防空網は突破できるからだ。

 中SAM自体は迎撃用のミサイルなので、中国に脅威を与えるものではない。だが、中SAMによる防空強化を必要とする与那国島の軍事利用計画(自衛隊と米軍)の全体を見れば、台湾有事において与那国島が攻撃を受けるリスクは間違いなく高まっていると言える。

 与那国町の上地町長は、小泉防衛大臣との面会で、中SAMの配備には「異を唱えない」と述べた一方、「これ以上の新たな部隊配備については慎重にならざるを得ない」とも伝えたという。前出の植埜さんたちとの面談の中でも、「防衛省には地対艦ミサイルと米軍の駐留は絶対にだめだと伝えている」と語っている。

 こうした上地町長のスタンスからは、中国に脅威を与えるような攻撃的な部隊の配備は島が攻撃されるリスクを高めるため回避したいという考えが伝わってくる。

 だが、平時に自衛隊の地対艦ミサイル部隊や米軍が駐留しなかったとしても、前述のように有事には展開してくる可能性が高い。

 日本政府は戦争が始まる前に、与那国島を含む先島諸島の住民約12万人を本土に避難させる構想だが、現在の国民保護の枠組みでは実行可能だとは到底思えない(これについては、また別の機会に書きたい)。

 近い将来、台湾有事が生起する可能性は低いと思うが、仮に生起して住民が避難できず島が大量のミサイルや自爆ドローンで攻撃される事態となれば、中SAMがあっても甚大な被害は避けられないだろう。

 住民の避難が困難な離島には、平時も有事も、攻撃されるリスクを高めるような部隊配備(自衛隊も米軍も)は行うべきではないというのが私の考えである。

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