【深掘り】有事に民間人を強制的に動員するのは憲法上許されるのか?ーー維新が業務従事命令に罰則を付けることを提言

政権与党の日本維新の会は、有事の際に民間人に自衛隊の作戦行動への協力を求める「業務従事命令」の実効性を高めるため、罰則を付けることを提言している。これは、本人の意に反する「苦役」の強制を禁じる憲法18条の規定に抵触するのではないか?この問題をめぐる歴史的経緯を踏まえ、考えてみたい。
布施祐仁 2026.09.06
サポートメンバー限定

 防衛省・自衛隊の元幹部らが、自衛隊員のなり手不足を打開する策の一つとして、「外国人の登用」を提言したことが波紋を呼んでいる。

 これに対して私は、「外国人の登用」よりも「民間人の活用」が今後進められる可能性が高いと指摘する記事をYahooニュースに執筆した。

◆「外国人を自衛隊員に」が波紋――深刻な隊員不足、その先に浮上する「民間人の有事動員」(布施祐仁)

 このニュースレターでは、もう少し深掘りしてみたい。

有事に民間人を自衛隊の作戦に協力させる「業務従事命令」

 自衛隊法には、有事の際、民間人に対して自衛隊の作戦行動に協力するよう「業務従事命令」を出せる規定がある(103条2項)。

 ただし、命令を出せる対象は「医療、土木建築工事又は輸送を業とする者」に限られている。具体的には、①医師、歯科医師、薬剤師、看護師、准看護師、臨床検査技師、診療放射線技師②建設業者③鉄道事業者④自動車運送事業者⑤船舶運航事業者⑥港湾運送事業者⑦航空運送事業者――だ(自衛隊法施行令130条)。

 協力内容としては、戦闘で負傷した隊員の治療のための医療、防御施設などの構築のための土木建築工事、隊員や装備品などの輸送や空港・港湾での荷役といった業務が想定されている。

 活動地域は、戦闘が行われていない後方地域(非戦闘地域)に限定されている。

 自民党と連立を組む日本維新の会は、有事における民間人の動員体制を強化するために、この自衛隊法の規定を大幅に改正するよう提言している。

業務従事命令は防衛大臣または自衛隊指揮官の要請に基づき当該地域の都道府県知事が公用令書によって発令する(画像はAIで作成した公用令書のイメージ)

業務従事命令は防衛大臣または自衛隊指揮官の要請に基づき当該地域の都道府県知事が公用令書によって発令する(画像はAIで作成した公用令書のイメージ)

 命令を出せる対象を「防衛産業従事者」など「我が国の防衛に必要な業務に従事する者」に拡大し、活動地域の制限も廃止するよう求めている。

 そして、最も重大なのは、命令の実効性を高めるためとして、従わなかった者に対して刑罰を科すべきだと主張していることだ。

有事法制(2003年成立)で罰則が付けられなかった理由

 自衛隊法103条には、民間人に対する業務従事命令以外にも、民間業者に対して自衛隊の作戦行動に必要な物資の保管命令を出せる規定もある。

 1954年に自衛隊法が制定された当初はいずれも罰則規定は設けられなかったが、2003年にいわゆる「有事法制」が制定された際、後者については新たに罰則規定が設けられた。

 物資の保管命令に違反して物資を隠匿、毀棄、搬出した場合は、「6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金」が科されることになった。

 当時の中谷元防衛庁長官は、「罰則をもって物資の処分を禁じることにより自衛隊の任務に必要な物資を確保するという効果が十分に見込める」とその意義を語った。

 国会審議の中では国民の権利を制限する憲法上の根拠も問われたが、中谷長官は「(罰則規定は)外部からの武力攻撃に際し、国及び国民の安全を保つという高度の公共の福祉の要請に基づくもの」であるとして、「憲法上特段の問題を生ずることはない」と答弁した(2002年7月24日、衆議院・武力攻撃事態への対処に関する特別委員会)。

 一方、民間人に対する業務従事命令については罰則規定を設けなかった。その理由について、中谷長官は次のように説明した。

 「このような業務は、当該業者の専門的な知識、経験、能力を用いて能動的かつ主体的に行われることが必要なものでありまして、我が国が武力攻撃を受けているような事態において、自発的かつ積極的に協力していただくということが基本でございまして、刑罰をもって強制的に業務に従事していただいたとしても十分な命令の効果が期待できないということと、積極的な協力の意思のない者が業務に従事する場合には、かえって自衛隊の任務遂行に支障を及ぼしかねないということがありますので、違反した者に対しては刑罰を科さないということにしたものでございます」(同前)

 ここで重要なのは、国防のために国民の権利を制限すること自体は否定していない点である。物資保管命令については罰則の効果が見込めるが、業務従事命令についてはそうではないと判断しただけなのだ。

自衛隊法制定時には考慮された「憲法の壁」

 しかし、自衛隊法制定時に罰則規定が設けられなかったのは、政府の中に憲法に抵触するおそれがあるという考えがあったからであった。

 当時、防衛庁の前身である保安庁の幹部として自衛隊法制定に関わった人物が、そう証言している。

この記事はサポートメンバー限定です

続きは、1556文字あります。

下記からメールアドレスを入力し、サポートメンバー登録することで読むことができます

登録する

すでに登録された方はこちら

誰でも
被爆、貧困、差別を乗り越え3000本安打ー張本勲さんが残した平和のメッ...
誰でも
【コラム】終戦81年。日本はもう謝罪する必要はないのか?
サポートメンバー限定
【ASEANウォッチ②】 インドネシア海軍と中国海軍が台湾東方海域で...
読者限定
【ASEANウォッチ①】ジャカルタのASEAN本部で「東南アジア友好協...
読者限定
高市内閣は非核三原則の見直しに踏み込む可能性大! 背景にアメリカの核兵...
読者限定
自衛隊がパランティア社のAIを導入する可能性――背景に米軍の指揮統制システムとの一体化
読者限定
自衛隊と貧困との関係をファクトで検証してみた
読者限定
なぜフィリピンで自衛隊がミサイル発射?――背景にアメリカの対中国「集団...